第十回 『二大秘訣は秘訣はカリスマへの近道』 ㈱商売科学研究所 所長 伊吹卓
■二大秘訣でなぜ売れるのですか?
「商売上手の二大秘訣(苦情法・着眼法)」を実行すると不思議なくらい売れます。
私は指導先で、半年のうちに売上げが二倍になったことや、私の本を読んで感動した人が二大秘訣を信じて実行し、二年半で売上げ四倍、六十二億円になったと報告してくれたことなど、いくつもの実例を体験しています。しかし、二大秘訣そのものは実に平凡なことです。説明すると、あほらしくなるほど単純です。
・苦情法ー「何かぐあいの悪いことはありませんか」「何かご迷惑をおかけしてませんか」などと折を見つけては問いかけるようにしていると一年で二倍は売れるようになる
・着眼法ー売れる人(店・商品)をよく見る(観察する)ようにし、気づいたこと、感じたことを素直に実行するようにしていると、一年のうちに二倍売れるようになる
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このようにいうと「なぜか?」と質問する人が出てきます。ある会社の千葉支店長は、苦情法の話に感動して半年、一生懸命やってくれたら売上げが二倍になりました。その支店長がいうのです。「伊吹さん。私は苦情法を一生懸命やったということはできます。しかし、なぜ苦情法をやると、こんなに売れるようになるのですか」私は、しまったと思いました。その質問は、私が先にするべきでした。それなのに先を越されてしまったのです。しかたがありません。そこで私はいいました。
「私の方こそ質問したいですよ。やったあなたにわからないことが、やっていない私に、なぜわかりますか。私にいえることは、苦情法を一生懸命やりさえすれば、だれでも売れるようになるということだけです」
着眼法にも同じことがいえます。業種によって指導の中心を苦情法にしたり、着眼法にしたりしています。いずれにしても、二大秘訣を使うと必ず売れるようになるのです。私は、それだけで充分に満足していました。
私はたまたま、そういう実例にたくさん出会い、二大秘訣と名前をつけて本に書いたらベストセラーになり、指導の依頼をたくさん受けるようになったのです。
そしてどこででも「二大秘訣で、なぜ売れるのか」と質問されたものです。そのため、長い間、困り続けてきました。そして最近になって、やっと気づきました。
「二大秘訣を実行すると、カリスマ・セールスになれるのだ!だから説明しにくいのだ」と。
■売ることは催眠現象である!?
現代人は、すべての人が精神分裂症的性格を持っています。それは、あまりにもたくさん知っているので理解できないことは受けつけないのです。それなのに、自分が何かをするときには、、まったく感情的に行動しているのです。
数年前に、東京電力のOLが殺されるという事件が起きました。一流大学を出て一流企業の課長までしていた女性が、夜は娼婦になって働いていたのです。そして無残な死に方をしたのです。この事件は、氷山の一角にすぎません。世の中は、合理主義、管理主義で限りなく人間を追いつめています。しかし、人間は機械ではないのです。理性的になればなるほど、無意識のうちに感覚的、本能的、動物的に行動するのです。そういうときの感情を理性で説明することはできないのです。
カリスマ型の人は、そういう人間の心を、直感的に読みとれる人なのです。あるコンサルタントはいいました。「トップ・セールスマンは、客を催眠術にかけているのです」私は、その言葉を初めて聞いたときには、心の中で反発していました。
しかし、私が電話器のセールスにまんまとのせられた事件のあとで気づきました。
(あのときの私は催眠術にかかっていたのと同じではないか)と。
売れるときには、客は一種の催眠状態になっているものです。カリスマという言葉は、もともと宗教の教祖に使われていたものです。教祖は信仰されます。信じると疑わなくなるものです。疑わないのは、頭が停止状態になっていることです。そのことを催眠現象といってもよいでしょう。そういう意味で、商売上手の二大秘訣には、催眠効果があるのです。
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前にものべたように、人間は嫌なことに数万倍敏感です。だから普通は用心をし、警戒をし、スキを見せないようにしています。それは筋張しているということです。
それなのに「何かご迷惑をおかけしたことはなかったでしょうか」と下手に出られると、ホッとして安心し警戒を解いてしまうのです。
人を疑い警戒するということは疲れるものです。本当は、人を疑いたくないのです。だから安心してよいと思うと急に安心し、人を好きになり、だらしなくなってしまうのです。警戒しているうちは相手を疑って見ており欠点探しをしていますが、警戒心を解くと欠点が見えにくくなります。人を好きになると「あばたも笑くぼ」といいますが、このことわざは私たちの感覚の盲点をみごとに表現しています。そのことを「催眠術をかけるのだ」と表現しているのです。
このように考えると苦情法がカリスマ・セールスの効果を上げることが納得できるのではないでしょうか。
■セールスという名のすばらしいドラマ
つぎに着眼法がカリスマ・セールスの効果を上げるメカニズムを説明することにしましょう。セールスにおける着眼法というのは、トップ・セールスマンについて行ってセールスの実際を観察し、感動したこと、気づいたことをマネすると、不思議に売れるようになるのですが、説明のしようがありません。やはり「催眠術にかかったようなものだ」ということになるのでしょうか。
あるトップ・セールスマンが新人をつれて、飛び込みセールスをしました。そのトップ・セールスマンは初めての会社を訪問しているのに、慣れた感じで入っていき、挨拶をしました。あとになって新人がたずねるのです。「先輩、本当にこの会社へくるのは初めてだったのですか」「初めてだよ。どうして、そういうことを聞くのか?」「はい。あまりにもさわやかに慣れた感じで、すぅっと入っていかれるので、何回も来ておられるのではないかと、つい・・・」「そうか。たくさん飛び込みをやってきたからなぁ。慣れだよ。慣れ。人間、何にでも慣れというものがあ
るのさ。慣れるといちいち筋張しなくなるのだ」といったのですが、新人は感心していたそうです。
トップ・セールスマンが飛び込みセールスで、さわやかに入って行って挨拶するのは、相手に不愉快さを与えないための一つの条件にすぎません。相手に(あっ、素人だな)と思われるようでは軽べつされてしまいます。相手に軽べつされたり、不愉快さを与えていては嫌われてしまいます。トップ・セールスマンの接客態度を見てると、挨拶のしかた、おじぎのしかた、話のしかた、話の聞き方、もの腰、表情、声の調子など、すべてが、さわやかで心地のよいものになっているものです。それは、楽しいドラマを見ているようなものだといえるでしょう。
テレビ・ドラマを見ているとき、つまらないと思ったら、すぐスイッチを切ってしまうものです。それと同じことです。セールスというのは、一つの演技であり、ドラマなのです。そのドラマのテーマは「顧客満足」。どのようにお客様を喜ばせるのかのシナリオは、一人ひとりのセールスマンが、そのとき、その場に合わせて考え、演じなければなりません。
演技がうまいと客は、うっとりします。好きになります。警戒心を解き、安心し、信頼するようになります。だから、催眠効果が出てくるのです。そういう事実を目の前で見ていると「百聞は一見にしかず」で、大きな効果が出てきます。つまり、着眼法も、カリスマ・セールスを実現する技法なのです。
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